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東京高等裁判所 昭和34年(う)2705号 判決

控訴人 被告人 加登幸次 弁護人 中村光三

検察官 岡崎格

検察官 山口鉄四郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審の未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。

理由

検察官の控訴趣意は検察官検事岡崎格作成の控訴趣意書のとおりであり、これに対する答弁及び弁護人の控訴趣意は弁護人中村光三作成の答弁並びに控訴趣意書のとおりであるからここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。

検察官の論旨第一について。

原判決はその擬律において判示第二の準強盗未遂罪の刑について未遂減軽をなし、これと判示第一の(一)乃至(三)の各窃盗は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条により重い判示第二の準強盗未遂罪の刑に法定の加重をしたと説明していることは所論のとおりである。按ずるに準強盗未遂罪の刑について未遂減軽をすれば刑法第六十八条第三号によりその刑期の二分の一を減ずる結果その所定懲役刑の長期は七年六月短期は二年六月となり、これと窃盗罪の刑とを比較すれば窃盗罪の刑は十年以下の懲役刑であるから同法第十条第二項により長期の長い窃盗罪の刑を以て重しとし、これを基準として同法第四十七条により併合罪の加重をしなければならないことは明らかである。然るに準強盗未遂罪の刑を重いとしてこれに併合罪の加重をした原判決は同法第四十七条、第十条の解釈適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

同論旨第二について。

原判決は判示第二の準強盗未遂罪の刑について未遂減軽をなしこれと判示第一の(一)乃至(三)の窃盗罪とは併合罪の関係にあるとして併合罪の加重をした上、更に犯罪の情状憫諒すべきものがあるとして右準強盗未遂罪の刑につき刑法第六十六条、第六十七条、第六十八条第三号により酌量減軽をなし、少年法第五十二条により懲役一年以上三年以下に処しているのである。思うに併合罪の加重について刑法第四十七条本文は、併合罪中二個以上の有期の懲役又は禁錮に処すべき罪あるときはその最も重い罪につき定めた刑の長期にその半数を加えたものを以て長期とすると規定しているだけで短期については何等規定していないが、短期については併合罪中短期の最も長い罪の刑による趣旨と解するを相当とする。蓋し短期についても長期の長い罪について定めた短期によるものとすれば、長期は短いが短期の長い罪のみを犯した場合にはその短期以下の刑を言い渡すことはできないのに、この罪のほか更に長期は長いが短期の短い罪を犯せば却つて、前記短期の長い罪の短期以下の刑を以て軽く処罰し得るという不合理な結果を生じ到底容認し得ないからである。而して本件において原判決判示第二の準強盗未遂罪の短期は懲役五年であるところ未遂減軽及び酌量減軽をしてもその短期は懲役一年三月に止まるから、被告人に対しては法律上短期を一年三月より下すことを得ないわけである。してみれば短期を一年として、一年以上三年以下の懲役刑を言い渡した原判決は刑法第四十七条の解釈適用を誤つた違法あるもので、その違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから論旨は理由があり、原判決はこの点においても破棄を免れない。よつて、弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書により更に次のように判決する。

原判決が適法に確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判決判示第一の各所為は各刑法第二百三十五条に、第二の所為は同法第二百三十八条、第二百三十六条第一項、第二百四十三条に各該当するところ、第二の所為は未遂罪であるから同法第四十三条第六十八条第三号により未遂減軽をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから第四十七条第十条によりその重い第一の(二)の罪に法定の加重をなし、なお犯罪の情状憫諒すべきものがあるので同法第六十六条、第六十七条、第七十一条、第六十八条第三号により酌量減軽をした刑期範囲内で処断すべきところ、被告人は現在成年に達しているから定期刑を科することとなし、所定刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、同法第二十一条により原審の未決勾留日数中六十日を右本刑に算入し、原審及び当審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人に負担させないこととし主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 司波実)

検察官岡崎格の控訴趣意

第二、本件の処断刑の短期については併合罪中、その短期の最も重い、強盗未遂の、未遂減軽し、且つ酌量減軽した短期懲役一年三月によるべきであるのに、これを下して短期として懲役一年を言い渡した違法がある。すなわち、併合罪の処断刑は長期については併合罪中最も重い罪の刑の長期に半数を加えたものにするが、短期については併合罪中その短期の最も重いものによるべきものと解するのが相当であるから、本件において併合罪の加重をした場合の短期は未遂減軽した強盗未遂の短期懲役二年六月によるべきである。けだし、刑法第四十七条が併合罪の短期について何等規定せず、その長期のみについて定め、いわゆる最も重き罪につき定めた刑の長期を併合罪加重の基準とすることを示しているにとどまつている点に着目すれば、他の軽い罪の刑の適用を排除しているものでなく、依然として軽い罪の刑は適用されていると解すべきであつて、同条適用後の処断刑の選択にあたつては当然、軽き未遂減軽した強盗未遂の刑と総合的に判断すべきで、従つて単に強盗未遂罪として処断する場合よりも軽くすることはできないと解することが合理的であるばかりでなく、同条の長期加重のみの文理からすれば、むしろ、同条自体が実質上軽き罪の最下限より軽き刑に処することを禁じた趣旨をも含んでいると解するのが法の精神に合致し、常識的であり、若しこれに反して併合罪の加重をする場合の処断刑として、短期を、併合罪中の各罪に定めている短期を顧慮することなく、最も重い罪の短期によるものとすれば、強盗未遂罪一個だけ犯したときは如何に減軽しても一年三月を下らないのに、更に窃盗罪を犯したため一年三月より下して処断される奇異な結果を招き、きわめて不合理であるからである。このことは、昭和二十八年四月十四日最高裁判所第三小法廷判決の趣旨にも表われており、且つ、同年七月二十八日名古屋高等裁判所刑事第二部判決の明示するところでもある。それ故に、原判決は、本件短期につき、未遂減軽し更に酌量減軽した強盗未遂の短期懲役一年三月より下すことができず、被告人を懲役一年三月以上七年六月以下の範囲内で処断しなければならなかつたのである。従つて原審が被告人を懲役一年以上三年以下に処したのは刑法第四十七条の適用を誤つたことになる。以上の法令の適用の誤りは、いずれも判決に影響を及ぼすことが明かである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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